JPNICレポート2 平原正樹 はじめに 1993年4月9日、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の 第1回総会が、東京大学大型計算機センターで開かれました。集まったのは、 JPNICに参加した20のネットワークの関係者です。日本のコンピュータ・ネッ トワークにかかわりをもつ人びとが共有する情報センターの、新たな一歩が踏 み出されたのです。 なぜ、なんのために必要か?   私たちがインターネットなどに電子メールを出すときになにげなく使う(と 同時に、間違いがないかと100回は見なおすものとして知られている)電子メー ルアドレスは、どのネットワークに属していようと、統一的な形式であり、一 意性が保証されています。このことは、同じアドレスが重複しないことを意味 しており、宛先へ正しく送り届けることを可能にするもっとも基本的な条件で す。  EthernetなどにTCP/IPで接続するワークステーションやパーソナル・コンピュー タに必要なIPアドレスについても、同じことがいえます。私たちが勝手にIPア ドレスを設定するにしても、組織内で使うぶんには重複しないように気をつけ ることはできます。しかし、広域ネットワークに接続し、ほかの組織とTCP/IP で通信するようになると、通信相手が同じIPアドレスを使っていないかを誰か に保証してもらう必要があります。これは、かならずしも広域ネットワークの 場合だけではなく、関連会社と接続する際にも、両者が偶然同じ(たとえば双 方のシステムが納入時に設定していた)IPアドレスを使っていたとしたら、た いへん困った事態になります。  さらに、広域ネットワークの発達によって、多数の組織と通信が可能になっ てくると、あるドメイン名(たとえばkyushu-u.ac.jp)やIPアドレス(たとえ ば133.5.0.0)をどの組織が使っているのか、あるいは特定の組織のアドレス を知るために、オンラインの情報提供および検索サービスが欲しくなります。 たとえていえば、電話帳か、NTTの104(番号案内)のようなものです。  これらは、コンピュータ・ネットワークとそれに接続する組織、および利用 者に共通の問題であり、どこかのネットワーク団体か大学、あるいはボランタ リー・グループのサービスに依存すればそれですむというものではありません。 アドレスのような共有資源の割当てやその情報管理と提供は、ネットワークに かかわる人びとに共通の要請であり、調整された統一的な機構によって、公平 かつ迅速に遂行されることが不可欠です。 発足までの経緯 しかしながら、JPNICのような情報センターが成立するまでには、多くの関 係者の献身的な努力と忍耐を要しました。ことの発端は、JUNETが急成長して いた時代に遡ります。当時、電子メールアドレスを構成するドメイン名は、 junet-adminと呼ばれたJUNETの管理者グループのボランタリーな努力によって、 国内の各接続組織に割り当てられていました。JUNETでは".junet"で終るドメ イン名を用いていましたが、1989年には".jp"で終るドメイン名へと移行しま した。このJPドメイン名は、日本のコンピュータ・ネットワークを表すものと して、それ以降JUNET以外(当時、WIDE、TISN、JAINなどのIPネットワークや BITNETがすでに活動を開始していました)でも使用されることになるのですが、 実質的なドメイン名割当て機構の不在から、引続きjunet-adminがほかのネッ トワーク団体へのドメイン名割当てを担っていました。 一方、国内のIPアドレスの割当ては、古くはSRINICへ直接申請していました が、1989年2月からはネットワーク・アドレス調整委員会がおこなうようにな りました。ところが実際は、割当てを実行する事務局の運営は多忙な大学の教 官に任されていたため、迅速な対応からはほど遠いものでした。 こういった状況は、JNIC発足まで続きました。この時期、ネットワークは加 速度的に発達し、各ネットワークの有志によるドメイン名およびIPアドレスの 割当てと管理は、すでに限界に達していました。割当て処理の渋滞はネットワー クの発展を阻害し始めていました。そうした状況のなかで、各ネットワーク団 体および学会の代表から構成されるJCRN(研究ネットワーク連合委員会)では、 各ネットワーク団体の協力のもとに1991年12月にJNICが発足しました。 このJNICが、現在のJPNICの前身です。JNICの役割は、当面の渋滞を解決す ることと、必要となるサービスとその方法を明確にし、新たな組織化の準備を おこなうことでした。JNICは発足と同時にドメイン名の割当てを、1992年6月 からはIPアドレスの割当てと管理を引き継ぎました。JNICでは、運営委員会は 各ネットワーク団体から選出された委員で構成されていたので、かなりの公平 性は保てました。さらにボランティアの協力で、処理の渋滞は解消され、ある 程度の正常化はなし遂げることができました。ただし、発展し続けるコンピュー タ・ネットワークの世界を支える財政的な基盤がなかったため、なんらかのか たちで組織化する必要がありました。同時に、商業ネットワークの出現を間近 にして、研究用ネットワーク以外への対応も考えなければなりませんでした。 JPNIC発足 JNIC運営委員会で検討を続け、各ネットワーク団体にも意見を求めた結果、 それぞれのネットワーク・プロジェクトを会員とする任意団体を設立し、現在 の業務の継続とともに内容を充実させることになりました。そして冒頭で述べ たように、東京大学大型計算機センターの協力を得て事務局を同センター内に 置き、1993年4月から日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) がスタートしたのです。  JPNICは、その扱っているアドレスや情報はひろくネットワークにかかわる 人びとが共有するものであり、公平性が保たれる組織でなければなりません。 したがって、会費は上納金でもなければ、アドレス取得料でもありません。会 員ネットワークは、共通の仕事をおこなうセンターを共同で設立し、その運営 に必要な経費を、会費として負担しあうわけです。さらに、JPNICの会議は議 事録を公開しており、会議自体も(裁判と同じように傍聴席数が限られている 場合は抽籤することも考えられますが、申請者の秘密を保持しなければならな い非公開部分を除き)基本的に公開されます。  ところで、それぞれが日本語および英語での正式な名称は同一であるにもか かわらず、"JNIC"を"JPNIC”と変更したのは理由があります。"日本”を表現 するのに"J”のみとすると、同時に"J”で始まる他の国名(ジャマイカやヨル ダン)との区別ができなくなるからです。国際化への第一歩として、日本を表 すISOの2文字コードの"JP"を頭に付けてJPNICとすることになりました。  JPNICは、対外的には1993年4月に発足した国際インターネットの情報センター lnterNIC(DDN NICの業務がここへ引き継がれた)、ヨーロッパを統括する RIPE NCCの両NICと連携しながら、国際インターネットのアドレス管理機構で あるIANAの下で、国際的な連繋体制を確立しつつあります。  国際インターネットの世界では、JPNICは日本インターネットを代表する "CountryNIC”として認知されており、同時に世界各国への情報提供とさまさ まな役割の分担とを求められています。 JPNICの組織と活動  前述のようにJPNICの目的は、コンピュータ・ネットワークの円滑な発展に 貢献するために、必要となる登録管理や情報提供をおこなうことにあります。 ドメイン名やIPアドレスの割当て、ネットワーク情報の収集と提供、ネームサー バーの管理は、ネットワークの運用と発展を支えるための重要な業務です。同 時に、社会に対する広報活動、サービスの運用技術の開発や組織のあり方に関 連する検討、そして国際的な協調は、JPNIC自身を健全に運営し発展させるた めにも欠かせません。  こういった目的を達成するために、会員となっているネットワークの委員か らなる総会、総会で選出された理事・監事によって構成される理事会、理事会 から任命された運営委員によって構成される運営委員会、そして事務局があり ます。JPNICの実質的な活動は、この運営委員会(現在18名)で議論され、事 務局およびスタッフらの手によって実行されています。運営委員会は、以下の 作業部会を設け、各運営委員に仕事を分担することで、多くの課題に取り組ん でいます。 作業部会名 役割 DOM ドメイン名割当て IP IPアドレス割当て DB-IN ネットワーク情報収集 DB-OUT ネットワーク情報提供 DSN ネームサーバー管理 PUB 広報 RES 運用資源の管理 SOC 社会的課題の検討 FUTURE 将来の体制の検討 CHARGE 経費負担方式の検討 RULE 会則・細則の検討 APNIC アジア・パシフィックNIC おわりに  JPNICの設立は、ネットワークの発展にともなう当然の要請であったと思わ れます。JUNETの時代から考えると格段の進歩ですが、それでもなお、特定の 団体の責任感や関係者の献身的な努力に支えられて、運営できている状況です。  JPNICは、日本のコンピュータ・ネットワークにかかわる私たちの共同のセ ンターであり、参加者の支援と協力があって成立しているものです。  現状では、残念ながら会費によって賄われているのはひと握りの業務だけで す。その維持と健全な発展のためには、ネットワークにおけるJPNICの役割の 正しい理解と、財政的な支援はもとより、日々発展するネットワーク技術に対 応するための知恵と助言は欠かせません。そしてなにより、責任あるボランティ ア・スタッフとして有志の参加と協力を待っています。 (ひらばる・まさき九州大学) JPNIC会員一覧(1993年7月現在、21会員) つくば相互接続ネットワーク協議会(RIC-Tsukuba) 東北インターネット協議会(TiA) 中国・四国インターネット協議会(CSI) 東海地域ネットワーク(TRENDY) 国際理学ネットワーク(TISN) IIJインターネット(IIJ) 東北学術研究インターネット(TOPIC) Japan Academic lnter-university Network(JAIN) 第5地区ネットワークコミュニティ(NCA5) JUNET協会(JUNET) WIDEインターネット(WIDE) Japan Organized lnterNetwork(JOIN) `Because It's Time’Network in JaPan  (BITNETJP) 学術情報センター(NACSIS) 財団法人 電気・電子情報学術振興財団 関西ネットワーク相互接続協会(WINC) 九州地域研究ネットワーク(KARRN) 大阪地域大学間ネットワーク(ORIONS) 東京地域アカデミックネットワーク(TRAIN) 北海道地域ネットワーク協議会(NORTH) Spinプロジェクト(Spin) JPNIC役員、運営委員一覧(1993年7月現在)  センター長  村井 純 副センター長 森 瑞穂  理事     浅野 正一郎、石田 晴久、釜江 常好、         野口 正一、村井 純、森 瑞穂、吉村 伸  監事     東田 幸樹、 丸山 直昌 運営委員   平原 正樹(委員長)、高田 広章(副委        員長)、相沢 彰子、加藤 朗、神山 一恵        苅田 幸雄、小西 和憲、後藤 邦夫、        後藤 滋樹、酒井 伸啓、佐野 晋、中村        順一、中山 雅哉、東田 幸樹、松方 純        丸山 直昌、村井 純、吉村 伸 事務局長   中山 雅哉   事務局   〒113 東京都文京区弥生2-11-16        東京大学大型計算機センター内