日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC) および Asia Pacific Network Information Center (APNIC) 平原 正樹 , JPNIC 運営委員長 / APNIC staff 中山 雅哉 , JPNIC 事務局長 / APNIC staff JPNIC と APNIC に関する過去1年間に起きたネットワーク運用上の重要な事 項の報告と、そこでの問題点、今後の検討課題を報告する。なお、本文書の中 には、議論中の事柄や個人的な意見を含んでいる。JPNIC/APNIC の正式な決定 や手続きなどに関しては、それぞれの組織が発行する文書や議事録を参照して 欲しい。 1. 経過 (1) JPNIC 初期 ( 〜 Nov. 91 ) 特定のボランタリーグループや委員会 JNIC ( Dec. 91 〜 Mar. 93 ) JCRN の下、各ネットワーク団体の協力 JPNIC ( Apr. 93 〜 ) 会員ネットワークが共有センターを設立 一般的に考えられる NIC 機能の内、IR (Internet Registry) 機能と呼ばれる ドメイン名や IP アドレスの割当は、古くは、特定のネットワークプロジェク トやボランティアの手で遂行されていた。しかし、国内のインターネットの爆 発的な広がりと共にその限界が訪れ、JCRN (研究ネットワーク連合委員会) の 下で、各ネットワーク運営団体 (JPNIC 用語でネットワークプロジェクト、一 般には NSP と呼ばれる) が協力して、1991年 12月、JNIC[1] を発足させた。 JNIC は、NIC 機能に対する要求を満たす組織を作るための実験的活動として、 実際の日常業務の経験を積むことで、要求を明らかにすることが目的であり、 資金的な土台は皆無であった。この JNIC の試みの結果を受けて、1993年 4月 に組織的な改革を行なって出来あがったのか JPNIC[2, 8] である。現在の JPNIC でも、外部組織の援助やボランティアの貢献に相当部分を依存している が、望ましい体制へと着実に歩を進めている。 (2) APNIC APNIC Pilot Project ( Sep. 93 〜 Jun. 94 ) APCCIRN APNIC Interim Project ( Jul. 94 〜 ) 独立 一方、APNIC の活動の発端は、1993年 1月の APCCIRN (Asia-Pacific Coordination Committee for International Research Networking) 会議での APNIC Pilot Project 提案に遡る。この提案に基づいて、様々な検討と準備が 進められ、1993年 9月の APCCIRN 会議で Pilot Project の実行が具体化[3] した。約 10 ヶ月間の運用[4] に引続き、Interim Project としての継続が 1994年 7月から始まった。APNIC Pilot Project は、当面の措置として APCCIRN の下で活動を続けてきたが、APCCIRN (正式には APCCIRN/APEPG) が APNG (Asia-Pacific Networking Group) へと組織的な改革を行なったのに合 わせて、APNG からは独立して (もちろん関係は継続して) 活動することとなっ た。 2. JPNIC の最近のトピック JPNIC では、昨年度から二つのパイロットプロジェクトを実施している。一つ は、地域型ドメイン名の導入であり、もう一つがプロバイダによる IP アドレ ス割当の導入である。また、IP アドレス割当について、JPNIC の組織問題に ついても、進展があった。 (1) 地域型ドメイン名 1993年 12月から1年間進められているパイロットプロジェクトで、小中高校 や個人事業者等へのドメイン名の割当に際して、名前空間を広げる、選択の幅 を拡大する、ことを目的として行なわれている。一方、市町村区名(第3レベ ル)の選択についてや、地域密着組織を統一的に扱う方法の欠如(例えば、US ドメインおける CI や K12 といったサブドメイン)について、などに関する 問題が指摘されている。地域ドメイン名の割当を地域の特定組織へ委譲するこ とが可能かどうかについても議論が続けられている。 (2) プロバイダによる IP アドレス割当 1993年 11月から 6 ヶ月間進められたパイロットプロジェクトで、CIDR 割当 による経路情報の減少をプロバイダ毎で行なうことを可能とするために導入さ れた。現在は、パイロット期間を終了し、通常の業務の一つとして行なわれて いる。IIJ, SPIN, InfoWeb, WIDE の 4 プロバイダに対して CIDR ブロックの 割当を行ない、各プロバイダは 割当基準に基づいて、個々の組織へ割当を行 なっている。ネットワーク運用としては、経路情報を圧縮する効果が期待され ているが、NIC 業務としても、作業を分散化させると共に、より短期間で申請 から割当までが可能点になる点など、申請者にとっても利益があると考えられ る。 なお、アドレスが特定プロバイダに依存することを回避したい要望もある。IR 機能を遂行する NIC としては、接続するプロバイダからの割当を必須のもの として要求していないが、ネットワーク運用上の経路制御テーブル爆発問題は インターネット全体の共通問題であり、NIC 外部においても、この問題に対す る取り組みが期待されている。 (3) IP アドレス割当基準 本年 9月の JEPG/IP 会議の議論を受けて JPNIC 運営委員会でも IP アドレス 割当基準の見直しが行なわれた。この見直しの背景には、インターネット全体 に対する具体的な IP アドレス割当基準の欠如の問題がある。現在 IR 機能を 遂行する NIC が従うべき割当基準は RFC 1466 のみであるが、RFC 1466 にお ける一般性のある具体的な割当基準の記述は不十分であり、世界の IR 機能を 遂行する各 NIC はケースバイケースで割当を行なっているのが実状である。 JPNIC では、できるだけ機械的に業務を行なうための基準を用意してきたが、 世界的なアドレス空間の不足から、これの再考が求められており、今後は、 RFC 1466 に、より厳密に従った割当が行なわれることになる。これによる最 も大きな影響は、これまで JPNIC がその判断の手間を省く意味で、ある程度 余裕を持って行なっていた割当業務に、より多くの労力が必要となる点にある。 この変更は、決して、2年後に必要となるアドレス数が申請者へ割り当てられ なくなることではないことに留意して頂きたい。もちろん、JPNIC としては、 機械的に処理する努力を払うが、申請者に対して、これまで以上に具体的な情 報提供を求めることになるので協力をお願いしたい。 (4) プライベート IP 空間 プライベート IP アドレス空間の規定が RFC 1597 として発行された。これは、 インターネットと直接 IP で通信する予定のないネットワークやホストにおい ては、プライベートな空間のアドレスを使うことで、アドレスの節約と、万一 の事故などが防げることなどを目指したものだが、これに反論する形で RFC 1627 が発行された。JPNIC が IR 機能を遂行する上で、申請者が要求すれば グローバルにユニークなアドレスの発行を拒絶するものではないが、アドレス 空間の枯渇はインターネット全体の問題であり、NIC 外においてもプライベー トアドレスの扱いについで、議論を期待している。 (5) 法人化の検討 現在、JPNIC は任意団体の形を取っているが、法人化の検討を進めることにな り、運営委員会で各種の調査が進められている。 3. APNIC の体制 現在 APNIC の機能の内、IP アドレス割当を日本 (JPNIC) で、情報提供を韓 国 (KRNIC) で、ネームサーバをオーストラリア (AUNIC) でいった具合に、各 国で役割分担を行なっている。これは、実際の APNIC 運用を各国で機能分担 して行こうとする提案[5] に基づいている。 JPNIC では、予算の 10% を APNIC Project の業務遂行に費やしている。 KRNIC および AUNIC は、その分担を遂行するために人を割いている。 APNIC では、JPNIC から独立した活動が行なえる体制作りの検討が進められて いる。現在の JPNIC 同様、オフィスに関する援助が得られるという前提で試 算した必要経費は、[6] によると年間約 2,600 万円にのぼると見積もられて いる。 APNIC Pilot Project 期間中に、AP 地域の各国に NIC ができることを見越し、 統一的なエントリが利用者の益になると考えて、以下の形式のドメイン名を割 当あるいは予約した。日本の場合 JPNIC.NET が NIC.AD.JP 同様に国際的に使 われることになる。 NIC.NET 4. 資金モデル例 JPNIC における資金問題に関する案は現在作成中であり、この件は別稿に譲る。 ここでは、資金モデルに関する世界的な現状を見る。 (1) JPNIC 世界的に幾つかある NIC の中で、外部組織の援助を得ているが、資金的に独 立した運用を行なっているのは JPNIC だけである。この独立性が JPNIC を、 (政府組織を含む)特定の団体の影響を受けずに、中立でインターネットの発 展に合わせた先取的な活動が行なえる団体にしている。93 年度決算額は約 1,400 万円、94 年度予算額は約 2,400 万円である。 (2) InterNIC 実際には NSF との契約によって、RS (Registration Service) 機能が Network Solutions、DS (Directory Service) 機能が AT&T、IS (Information Service) 機能が General Atomics によって、分散的に実行されている。US 政府資金である NSF による予算は、5年間契約で計 1,200 万 US ドル、その 内、RS 機能には年間約 100 万 US ドルが投入されている。 (3) RIPE-NCC RIPE-NCC は、NSP からの寄付によって運営される枠組[7] を持っている。し かし実際には、年間約 3,000 万円の予算の内、プロバイダからの寄付は約2 割で、残りを RARE が負担している。 (4) KRNIC 最近、政府機関である National Computerization Agency (NCA) で実行され るようになった。 (5) APNIC 現在、どのような資金モデルが考えられるかの議論を進めている。インターネッ トの拡大に対応できること、中立であること、安定であること、など IR 機能 への要求がある中で、寄付を基礎にしたモデル、サービスに対する課金モデル、 リソースに対する課金モデルなどが検討されている。 ここで、重要なことは、JPNIC が独自の資金モデルを考えた時、そのモデルが APNIC やインターネット全体のモデルと整合性が取れていることである。逆に、 APNIC が資金モデルを考える時、インターネット全体のグローバル NIC から APNIC、そして各国の NIC へという階層を意識し、それぞれの地域や国の事情 も考慮できる枠組を考えることである。 5. 公開性 JPNIC では、その活動を広く理解して頂くために広報活動を積極的に行ない、 これまで、インターネット関連の雑誌などへの寄稿や連載、インタロップなど の展示会への出展などを行なってきた。特に、今年4月に発行したニュースレ ターには、全般的な事柄が記述されているので、ぜひご一読頂きたい。また、 隔月で開催されている運営委員会は(席数は限られているが)傍聴も可能となっ ている。インターネット上での議事録などの公開と共に活用して欲しい。別項 で述べる資金問題に関しても、できる限り広く意見を求める努力を行なってい る。 なお、JPNIC と利用者との交渉は、各 WG 窓口(例えば IP アドレス割当の窓 口)において行なわれてきたが、全体的な意見を広く取り入れると共に、苦情 や建設的意見を受け入れる窓口として、以下のエントリを用意している。対応 は、運営委員会で行なうこととしている。 goiken@nic.ad.jp 御意見用メイルアドレス suggestions@nic.ad.jp 御意見用メイルアドレス kujo@nic.ad.jp 苦情処理用メイルアドレス complaints@nic.ad.jp 苦情処理用メイルアドレス 参考文献 [1] 平原正樹, 高田広章, 亀山幸義: ``日本ネットワークインフォメーション センター JNIC の活動'', オペレーションズ・リサーチ, Vol. 37, No. 12, pp. 575--578, Dec. 1992. [2] 丸山 他(編): ``JPNIC ニュースレター (第1号)'', JPNIC, Apr. 1994. [3] Murai, J., and Conrad, D.: ``Asia Pacific Network Information Center Pilot Project Proposal'', ftp://ftp.apnic.net/apnic/docs/english/apnic-003.txt, Aug. 1993. [4] Gebes, V.: ``Pilot Project Final Report'', ftp://ftp.apnic.net/apnic/docs/english/apnic-009.txt, Jul. 1994. [5] Park, T.: ``Proposal for Distributed APNIC Operations'', ftp://ftp.apnic.net/apnic/docs/english/apnic-007.txt, Dec. 1993. [6] APNIC Staff: ``Asia Pacific Network Information Center Organizational Proposals and a Preliminary Budget'', ftp://ftp.apnic.net/apnic/docs/english/apnic-005.txt, Dec. 1993. [7] Blokzijl, R. and Karrenberg, D.: ``RIPE NCC Funding'', ftp://ftp.ripe.net/ripe/docs/ripe-084.txt, May 1993. [8] 村井, 平原, 中山: ``JPNIC の活動と APNIC'', Proceedings of IP Meeting '93, Dec. 1993.