2.1 IPアドレスについての最新技術動向 現在IPv4のアドレスの割当基準が変更されたことはご存知でしょうか? これは、これまでIPアドレスの割当基準を示す文書であったRFC1466を現状に 合わせて改定したもので、実際に現在Internic、RIPE-NCC、APNICの地域レジ ストリでとられている割当方針をまとめて、レジストリに対するガイドライン としてRFC化されたものです。この新しい基準はRFC2050に示されており、 JPNICのFTPサーバから入手可能ですので是非ともご一読下さい。 まず、この文書に示される基準は、実際にIPアドレスの割当を行なう全ての組 織に対する指針となるものです。このIPアドレスの割当を行なう組織とは、日 本では日本のローカルレジストリであるJPNICや、JPNICからアドレス割当業務 委任を受けた全てのISPがその対象となります。ここに述べられるものを補完 する形でローカルレジストリで独自の方針を持つこともできますが、基本的に はここで示される指針に乗っ取ったものである必要があります。従ってとくに ローカルルールが示されていないものに関しては、この指針に乗っ取た割当が 行なわれます。 ここに示されている割当基準は、現在の経路制御やルータ技術の持つ特質や制 限を特に考慮して定義されています。これらの制限に打ち勝ち、インターネッ トを今後もこれまでのペースで発展させ続けるためには、現在のところここに 述べられている割当基準以外には考えられないとされています。 JPNICでも、現在このRFCに示されている基準に基づいた、日本国内でのアドレ ス割り当て基準の改訂作業をすすめています。以下に現在JPNICが考えている 割当基準の内容を簡単にまとめます。 2.1.1 インターネットに接続を持つ組織に対するアドレスの割り当て基準 ドラフトには、APNICやJPNICのようなレジストリから直接IPアドレスの割当を 受けられる条件として以下の3つのうち少なくとも一つを満たしている必要が あります。 a) 組織が、現在も将来も、インターネットに接続する意志がなく、し かも世界的にユニークな IP アドレスが必要な場合。このような組 織は RFC1918 で予約されたアドレスを利用することを考慮しなけ ればならない。これが不可能であると判断された場合、ユニークな (インターネットで経路制御の対象にはならないだろうが)IP アド レスが割り当てられる。 b) 組織がマルチホームしており、全ての接続を均等に利用する場合。 c) 組織の要求が非常に大きく、例えば要求をカバーするネットワーク プリフィックス長が /18 以下である場合。 これ以外の組織はRFC1918に述べられているプライベートアドレスを利用する か、CIDRによる経路情報の集約効果を最大限に得るために、接続を持つISPか ら割当を受けるべきだとされています。 現在、経路情報の集約が可能なアドレスブロックとそうでないアドレスブロッ クを明確に区別するため、JPNICでは組織に対する直接の割当を一切行わず、 国内の組織から出された申請は全てAPNICに対して仲介し、APNIC側で予めその ような割当用に予約したブロックからそれらの申請に対する割当を行うと言う 方式をパイロットプロジェクトとして行っています。 また、ISPから割当を受ける場合も、レジストリから直接割当を受ける場合もその 割り当てられたアドレス空間の利用率に関して以下の条件が設けられます。 a) 割当から半年以内に 25% の利用率 b) 割当から一年以内に 50% の利用率 これらの利用率に関しては、アドレスの申請時に根拠のある予測を示さなければな りません。また、この利用率に照らし合わせた結果、割り当てられるアドレス空間が /24よりも長いプリフィックスになることもあり得ます。 利用率の計算は、 割り当てられた空間の中からホスト等に割り当てるアドレス数の合計 利用率 = -------------------------------------------------------------- x 100 割り当てられたアドレス空間の大きさ - サブネット数 x 2 という式で行います。 また、詳細な理由を提示しない限り、機器が対応していないことによる例外措 置は適用されなくなります。アドレスの割り当ては、VLSMが実装されているか、 実装予定であることを仮定して行われます。さらにこの利用率の計算は、過去 にその組織に割り当てられているIPアドレス全体に対して行なわれます。 ISPに委任されたブロックから割当を受ける場合には、接続点割当という考え 方の導入を検討しています。これは、ISPに接続を持つ際に、過去に割り当て られたアドレスに関する経路情報をそのISPからアナウンスしない場合にかぎ り、あらたなアドレスの割当の際に考慮する利用率の計算を、そのアドレスを 実際に利用する範囲に限定して行う、というものです。 過去に割り当てられた、CIDRに準拠しないアドレスの返却とCIDRに準拠した アドレスへの着け替えについては別途なんらかの現実的な方法を考えて行く方 針です。 2.1.2 ISPに対してアドレスブロックを委任するための基準 CIDRを用いた階層的なアドレス体系を促進するために、ISPはレジストリからCIDR ブロックの割り振りを受け、そのブロックの中からそのISPに接続される組織に対 してアドレスの割当を行なっていく必要があります。 しかし、CIDRによるアドレス集約を最大限に行なうために、以下のいずれかの条件 を満たすISP以外は、レジストリからCIDRブロックの割り振りを受けることができず、 経路制御的に上流にあるISPのもつCIDRブロックの中からアドレスブロックの割り 振りを受けなければなりません。 a) ISP が主要な相互接続点に直接接続している。(主要な相互接続点とは、 4つ以上の独立したISPが接続された、OSI参照モデルの第2層での接続を 行なう中立な相互接続点である。) b) ISP がマルチホームしている。この場合マルチホームとは、世界的な インターネットに対して複数の接続を同時に行い、どれか一方が完全 に切れた場合にもインターネット全体への接続性が損なわれないような ものを指す。 この ISP に対する IP アドレスブロックの割り振りの指針としては要約する と以下のようになります。 1. CIDR アドレスは ISP にブロックで割り振られ、そのISPに接続を持つ ユーザに対して接続の期間中貸し出されるものとする。インターネット への接続契約が終了した場合、そのユーザは使用中のアドレスを返却し、 新たなISPのアドレス空間に renumber することが要請される。 2. CIDR の効率的な実現と利用のために、JPNICは CIDR でサポー トされている適切なビット境界に従ってアドレスを発行する。 3. ISP はアドレス空間を効率的に利用することが要求される。このため ISPは、各割り当てに対して文書で根拠を提示できるようにしておかなけ ればならない。 4. IP アドレスは "slow-start" 手順によって ISP に割り振られる。つ まり新しいISPには初期の要求に基づいた最低量の割り振りが行われ、 その後、そのブロックからの割当が進むにつれて、割り振られるブロッ クが徐々に大きくなっていくようなやり方をとる。具体的には、初めて 委任を受けるISPには、/19が予約され、そのうちの最初の/22が委任さ れる。但し経路情報としては、予約されている/19全体をアナウンスしても よい。 5. IPv4 アドレス空間の利用効率を上げるため、全ての割当は、各サ イトでは可変長サブネットマスク(VLSM)およびクラスレスな技術を 使用することができるという仮定に基づいて行われるるべきである。 7. IPv4 アドレス空間の残りが限られているため、ダイアルアップユーザ に静的にアドレスを割り当てること(例えば、顧客毎にアドレスを一 つづつ)は止めるべきである。可能な限りダイナミックにアドレスを 割り当てる技術を導入するべきである。 全てのサブレジストリ(ISP やJPNICのようなローカルレジストリなど)は、 自分が割り振りを受けているアドレスブロックの中から組織に対して割当を行っ た場合には、そのアドレスブロックの割り振りを行った地域レジストリに登録 を行わなければなりません。およそ 80% の再割り当て情報が登録されるまで は、追加の CIDR ブロックが地域レジストリや上流プロバイダから割り当てら れることはありません。またJPNICから委任を受けたISPは、JPNICにこのアド レスの割当の情報を割当を行った時点で行う必要があります。これを怠ると、 新たなブロックの委任は受けることが出来なくなります。 2.1.3 経路情報のフィルタリング 長いprefixをもつ経路情報のアナウンスを受け付けないことを表明している米 国の大手プロバイダが幾つかあります。これは、CIDRに基づいた割当がなされ ており、大きなブロックに集約可能であるはずの206.0.0.0/8以降のアドレス に対して行われています。現在は/19よりも長いprefixに対してこのフィルタ リングが行われています。 今後このようなプロバイダが増えて行くことも予想されます。より広範囲な接 続性を確保する為には、CIDRに基づいたアドレス割当を受けることが不可欠に なって来たということを示しています。 現在はまだCIDR以前に割り当てられたアドレスに関しては、クラスの境界より も短いprefixでフィルタリングするということは行われていないようですが、 今後インターネット上の経路情報が増え、ルータでの経路制御処理への負荷が 高まるにつれ、CIDR以前のアドレスに関しても何らかのフィルタが導入される 可能性は否定できません。例えば今年の3月の時点で、CIDR以前に割り当てら れた192.0.0.0/8に含まれるアドレスに関する経路情報は、全体の20%強にも至っ ています。特にこの範囲のアドレスの利用を止め、新たにCIDRに準拠したブロッ クに含まれるアドレスへrenumberすることが、ルータの経路表の増大を押える ことにつながり、インターネット全体の将来に対して大きな貢献となります。 このように、計画性を持ったrenumberingの検討が望まれる状況になって来て います。JPNICでも、出来るかぎり円滑に過去に割り当てられたアドレスから CIDRに準拠したアドレスへのrenumberを促進する方法を検討して行く方針です。