JPNIC の概要 -- 日本におけるインターネット自治の歴史 -- OECD/OSIPP ワークショップ(大阪)にて 1998年6月10日 日本ネットワークインフォメーションセンター 丸山 直昌 1. 歴史と組織 日本ネットワークインフォメーションセンター(以下 JPNICと略)は1993年 4月にインターネットサービスプロバイダ(以下 ISP と書く)の連合体として 発足した。1997年3月31日には政府より公益法人(社団法人)としての設立許 可を受け登記した。主にドメイン名とIPアドレスの登録・付与を業務として来 たが、社団法人化を機に、インターネットにおける普及・啓発と調査に関連す る活動を事業目的に加えた。 JPNICの組織としての指揮系統はその4つの機関によって説明できる。すな わち、総会、理事会、運営委員会、それに事務局である。総会は会員よりなり、 年に2、3回招集される。そこでは予算案、決算案の承認、理事の選出、およ びその他の重要な決定を行なわれる。理事会は、法人の運営する権限を与えら れている。運営委員会の構成員は理事会によって任命され、ドメイン名やIPア ドレスの登録・付与方針を含む多くの問題について、理事会に助言を与えるこ とを任務とする。運営委員会には、課題別検討部会が設けられている。事務局 は以上の活動を補佐する。事務局はこの他、ドメイン名やIPアドレスの登録・ 付与に関する日々の業務を行なっている。現在19人の職員が事務局にいる。 理事会はこの法人を運営する権限を与えられていて、運営についての重要な 決定を運営委員会と事務局の補佐のもとで自ら行なうが、しかしJPNICが公益 法人であるため、一般の意見に耳を傾ける義務も負っている。この義務を果た すため、JPNICは公開のメイリングリストや、出席者を会員に限定しない会合 を適宜開くなどの仕組みを用意している。 我々はこの法人のモットーともいうべき考えをいくつか持っている。その一 部は実際に何かの文書に書いてあり、いくつかは暗黙の了解であるが、これら はJPNICの基本理念と言ってよいものであろう。それらは、非営利・公益、中 立、ISPの協力によって運営すること、日本のインターネット運営の共通基盤 を提供すること、インターネットの商用化を促進すること、そして相互接続性 と経路制御には関知しないこと、である。最後はちょっと奇妙に聞こえるかも しれないが、しかしこれまでJPNIC内で会員プロバイダ同士の争いが起きなかっ たのはこの理念のお蔭であると感じている。今日のインターネットでは相互接 続性と経路制御の問題は時として商業的な利権につながるので、この理念はす べてのプロバイダに愛する中立性を保つうえで、非常に重要であると感じてい る。 JPNICの予算規模は、1998年度については6億7200万円ほどで、うち 38% は 会費、39% は登録・付与手数料、残りは前年度からの繰越である。 会費については、最近出た OECDのインターネットドメイン名に関するレポー トに良く説明されている。会費は、会員ISPが顧客としているドメイン名の数 に依存して決められる。この仕組みは、JPゾーンの DNS は日本インターネッ トの共通基盤であって、会員の共同の努力によって維持されるべきである、と の考えによっている。OECDレポートには次のように書かれている。 日本の登録組織は、(ドメイン名の)申請者に(申請時)一回限りの 料金を請求するが、会員に対しては、各会員がサービスを提供してい るドメイン名の数に基づく金額を請求する。このことは、実際上、会 員プロバイダが(ドメイン名の)年間保守料に責任をもっていること を意味する。 つまり、DNSサーバの年間保守料は、ある意味で、ISP経由で間接的に支払われ るのである。 2. JPドメイン名 JPドメイン名は2種類に分類される。一つは属性型ドメイン名であり、もう 一つは地域型ドメイン名である。現在7つの属性型があり、それらはアルファ ベット2文字の第二レベルドメイン名によって識別される。例えば NIC.AD.JP はJPNIC自身に付与されており、JPNICはネットワーク管理組織であるので AD が第二レベルになっている。7つの第二レベルは AD, CO, AC, GO, OR, NE そ れに GR である。 地域型ドメイン名はドメイン名を使用する組織の所在地を示すコードを第二 に持つ。 JPNICのドメイン名登録方針は、おおよそ次のようにまとめられる。 2.1 先願主義 2.2 一組織一ドメイン名 2.3 譲渡禁止 2.4 国内所在要件 2.2 と 2.3 は InterNIC の com ドメインには類似の規定がない。 JPNICは、 これら二つの方針は、ドメイン名をめぐる衝突を避けるのに役立ち、そしてド メイン名の売買 -- これはインターネットの発展に殆んど貢献しないことであ る -- を防ぐと考えている。 属性型について述べるならば、"NE" は多分 JPNIC 特有のものであろう。こ の第二レベルのドメイン名は、それぞれの顧客の対して個別の識別符合を発行 するような種類の通信サービスに対して付与する。そのような通信サービスの 例としては、アメリカで知られたCompuserveがある。もしこのようなサービス にJPNICが CO.JP のドメイン名を付与すると、その会社の社員の電子メイルア ドレスとサービスの顧客の電子メイルアドレスを区別することができなくなる であろう。従って、JPNICはこの二つを区別するために "NE" という第二レベ ルを導入した。 3. IPアドレスと AS 番号 JPNICはIPアドレスの塊を会員ISPに割り当て、会員ISPはその中から必要個 数のアドレスを末端利用者に付与する。この手順はインターネットドラフトの RFC 2050に基づいて行なわれる。良く知られているように、最近のインターネッ トにおいては経路情報の爆発的増大は極めて重大な問題であり、それゆえ JPNICはこのRFCによって示唆されているIPアドレスの階層的な割り当ての仕組 みを、APNICとの協力のもとで推進することに、最大限の努力を払っている。 AS番号の割り当てもAPNICとの協力のもとで行なっている。 4. 登録・付与業務のISPへの委任 JPNICは、ドメイン名とIPアドレスの登録・付与に対する課金を1995年6月に 開始した。その当時、我々はこの業務は会員ISPとの共同の事業として行なう べきであると考え、業務委任の仕組みを導入した。この仕組みの意味するとこ ろは、ISPが申請者とJPNICの間を仲立ちをし、整備された申請書をJPNICに送 り、JPNICの側はそれを最終的に判断してデータベースへの登録を行なうとい うものである。我々は、この仕組みに二つの効果を期待した。一つは我々の仕 事量を減らすことであり、もう一つは申請者に対する対応の改善である。我々 はISPに対して、割り引きの料金を請求し、ISPはそれにいくらかを上乗せして 申請者に請求することができる。この仕組みは非常に成功し、また登録・付与 事業に競争的な状況をつくり出した。 5. 結び 最後に、我々の多くの経験がインターネットの統治問題に多くの良い例を提 供しているということを指摘してこの話しを終りたい。例えばドメイン名とIP アドレスの登録・付与に手数料制を導入したのはJPNICが世界で初めてであっ た。また、ここで説明した業務委任の仕組みは、gTLD-MoUにある registry/registrarのモデルに大変良く似ている。この意味で、我々はこの分 野で世界の最先端を歩んで来たと感じており、そのことを誇りに思っている。 我々にとって、政府からの援助が全く無かったことはむしろ幸いであった。そ のために、我々は始めからすべての仕組みを民間主導で行なう方法を考える必 要があったのだから。 我々の経験が、インターネットの統治に関する現在の議論に良い例を提供す ることを望む。