第一章 地勢と自然現象
第二章 町の構成
第三章 交通と通信
第一章 地勢と自然現象
第一節 位置と地域
本町は東山梨郡の南部、重川と、笛吹川にはさまれた複合扇状地の上に、東西約一八○○米、南北約三〇〇〇米のぼじ長方形の土地を占め、四囲に松里村・塩山町・後屋敷村・加納岩町・八幡村・岩手村の二町四カ村をめぐらし街村に近い聚落形態をもつ小原の商店街、青梅街道に沿う八日市場と下井尻の沿道村落と、下井尻の一部と、七日市場の散在村落を合せて町を形作つている。
本町は甲府盆地の東北端笛吹、重川の複合扇状地の上に位置している。この扇状地は笛吹川が甲武信岳より南流して、奥千丈ケ岳の一分峯大久保山(一三四〇米)と高芝山(一五二七米)との間を抜けて峡東平坦地に出た所で、河床傾斜の変化のためその運搬砂土を堆積して造つた扇状の地形である。その扇頂より扇端迄約十粁余りあり、しの附近の扇状地中最も長く伸長した扇状地である。このように狭長な上に、その末端部に位置している本町扇状地の傾斜は二度あるに過ぎない。本地域内に於ける造地作用は、可成新しい時代まで継続されたようである。
因に日下部小学校の位置は東経百三十八度四十分十八秒、北緯三十五度四十一分五十秒、海抜三六六米である。
第二節 河川
(図版入る)
笛吹川の流路は、北々東の方向をとり水源地高く流路の長い川である。往時は自ら造つた扇状地上を流れたと想像されるが、現在では笛吹扇状地の中央部より西の山寄りを流下している。
笛吹川は、東山梨郡三富村奥千丈ヶ岳の東よりその源を発し、本郡及西山梨・東西八代・中巨摩の四郡三十余町村の間を流過し、市川大門町に至り釜無、芦川の二流と相会して富士川となり水量は冨士川に次ぎ、流域は廣いが流れが余り急傾斜でないため、洪水による災害を見ることが少い。然し河床の高いこの川は堤防外の耕地を水害より防ぐため、將來河床及堤防の改修が重要である。この川は一名子酉川ともいゝ、孝子権三郎のあわれな傳説のある川である。
用水路
(図版入る)
本町の灌漑用水路としては、その主流とも云うべき次の四水路をあげることが出來る。
一、井尻渠(四カ村渠)とも云う。村の東北地、松里村より流れる水路で、其源より約三十町、幅五尺、松里村東方(ひがしかた)、日下部町下井尻の田凡九二十六町歩余の用水に供している。
一,五カ村渠(三カ村渠)とも云う。本町旧七日市場村、及旧東西後屋敷村の用水である。北方、松里村字乙川戸より笛吹川の水を導き、水源より流末迄延長一里四町四十五間(約四四五〇米)幅六尺(約二米)より九尺(約三米)本町の田凡二十二町歩余に灌いでいる。又この堰は、昭和二十四年十一月一日より後屋敷・日下部堰水利組合の管理する処となり、名称も後屋敷日下部堰となつた。
一、小原東分渠(八日市場渠)とも云う。本町西北、旧七日市場村上川窪より笛吹川の水を導き本町小原西東部及小原東の田、凡二十三町歩余に灌ぎ流末延長八町(約九〇〇米)幅五尺、加納岩町に至つている。
(図版入る)
一、小原渠(六カ村渠)とも云う。本町の内、小原西分及、加納岩町の内上、下神内川・上、下石森・大野組を通水し、水源旧七日市場村下川窪より笛吹川の水を導き長八町、幅九尺、本町の田凡二十二町歩余に灌ぎ流末加納岩町に至る。水源より流末迄、約一里。
これ等の用水についての記録は、宝永二年の七日市場村明細帳に『用水は笛吹川より取申候、居村悪水は作場江流申候』とあり、享保九年下井尻村明細帳にも『当村堰、壱筋但し西後屋敷村、下塩後村用水堰』とあり『但し是は笛吹川より上げ候堰村の内五百五六拾間戌亥の方より辰の方へ流、幅八、九尺流申候、戌の方より二、三拾間流、五筋に罷成流申候、是は村の内田畑の間を流候大堰にて大雨の度に堰より水余り田畑悪敷罷成申候、笛吹川より上堰の儀に御座候間年毎に川除は無御座候。
当村用水堰場組合『当村、上井尻村、上塩後村、西方村、東方村』などの記録が残されている。
第三節 地質と土壌
本町は洪積層の地域廣く、沖積層は笛吹沿岸の限られた狭長なる区域である。笛吹川磧にある礫中、粘板岩、砂岩の出所は一は本郡玉宮村の小佛古生層に属するものである。火成岩の礫には山梨村上万力にある輝石安山岩、松里村に現出している花崗岩及万力・岩手・三富の諸村一帯に現出する石英閃緑岩が多い。土壌を分類表にすれば次のようになる。
部 落 | 田 | 畑 |
下井尻 | 埴壌土、壌土、沖積土、埴土 | 軽埴土、埴土 |
七日市場 | 沖積土、砂質土、軽埴土、埴土、埴壌土 | 軽埴土、埴土、埴礫土 |
小原東 | 埴壌土、沖積土、砂壌土、壌土 | 埴土、軽埴土、埴壌土 |
小原西 | 軽埴土、壌土、細砂土、砂壌土 | 軽埴土、埴土、紬砂土、埴壌土 |
笛吹川沿岸に砂質壌土があり、その外大部分壌土である。隣接加納岩町に較べて壌土の地域が廣く、砂土、砂質壌土及埴質の土壌が少いが、やはり洪積、沖積の二層から成るので土地が概ね平坦で旧秩父街道に沿う小区域に痩地を見る外、地味は一般に肥沃である。
第四節 動 植 物
本町は扇状地のなだらかな土地で、町の四囲には山も丘陵も森林も殆どないので、僅かに笛吹川の東岸七日市場にくぬぎ林があり、其他竹林或は神社に檜の立木を見る位のものである。從つて木の種類に乏しく、草類も山地性の多様性は見られず、路傍や畑地の雑草の繁茂を見るのみである、笛吹川沿川には磧に茂る変つた植物も僅かばかり見られ、草類も多少はあるが、その産額は少い。動物もその種類が少く、鼠類以外は余り棲息していない。魚類も笛吹川を主なものとするが、往時より種類も産額も減少している。鳥類は種類が多いが造巣繁殖するものは少い。昆虫類はよく繁殖し、農作物人畜に影響を及ぼすことが多い。次に動植物の主なものをあげると、
(1)哺乳類
イタチ、イヘネズミ、イヘコウモリ、カワネズミ、ヂネズミ、ハタネズミ、モグラ
(2)鳥 類
アマツバメ、イソツバメ、ウグイス、ウズラ、カケス、カワガラス、カワセミ、キセキソイ、クヒナ、コガモ、シジュヴカラ、スズメ、タヒバリ、チゴモズ、ツグミ、トビ、ハシブトガラス、ハシボソガラス、ハヤブサ、フクロウ、ホホジロ、ミソサザイ、モズ、ヤマガラ、ヨタカ。
(3)爬虫類
アオダイショウ、シマヘビ、トカゲ、マムシ、ヤマカガシ。
(4)両棲類
アカガエル、アマガエル、アオガエル、ツチガエル、トノサマカエル、ヰモリ。
(5)魚 類
アブラハヤ、アユ、ウナギ、カジカ、赤ハヤ、コイ、シマドジョウ、ナマズ、ドジョウ、ハヤ、フナ、メダカ、ヤマメ。
(6)虫 類
カマキリ、ウスバカゲロウ、テントウムシ、トンボ、ハサミムシ、オナガバチ、アブラムシ、アリ、アゲハチョウ、アリマキ、イチモジセセリ、イナゴ、エダシャクトリ、ウンカ、エンマコオロギ、カツオムシ、カナブン、カイガラムシ、ガムシ、クワカミキリ、クマバチ、ゲンゴロウ、ケラ、コクゾウムシ、セスジスズメ、セミ、タガメ、トビイロウンカ、ノミ、バッタ、バジラミ、へタムシ。
(7)植 物
アジサイ、アカマツ、エノキ、ウメモドキ、カラマツ、クヌギ、クリ、コナラ、スギ、ドクウツギ、ナラ、ニレ、ハンノキ、ヤマウルシ、ヤマツツジ。
(8)草 類
イヌヨモギ、オホバコ、ツメクサ、ハゝコグサ、フキ、ヘビイチゴ、ミツバ、ヨモギ、ワレモコウ、ヰノコヅチ、アカザ、カタバミ、スギナ、ツユクサ、ハコベ、ホトケノザ、アゼガヤツリ、ウキクサ、カヤツリグサ、アカソ、ギシギシ、セリ、ノビル、イタドリ、ヨシ、ウコギ、キンポウゲ、スズメエンドウ、レンゲソウ、ワラビ、アザミ、カニツリグサ、ミヤコグサ、コマツナギ、カナモグラ、オトギリソウ、ミゾハギ、アゼガヤツリ、スズメノテッポウ、テンツキタヌキモ、ハクカソウ、スベリヒユ、エノコログサ、イヌナズナ、ドクゼリ、ミゾハギ、ヤブカンゾウ。
第五節 氣 象
本町も山梨縣の気候特色を持ち、緯度から言えば温帯性の温和な気候圏内に属するわけであるが、高峻な四囲の山々とと複雑多岐な地形によつて、寡雨乾燥で寒暑の差が著るしい内陸性気候の特色を呈している。次に気温、降水量の表を示す。
地 名 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 年 |
甲 府 | 2.0 | 3.6 | 7.5 | 13.7 | 17.2 | 21.9 | 25.8 | 26.4 | 22.8 | 16.4 | 10.2 | 4.5 | 14.3 |
三 富 | 1.0 | 1.7 | 5.1 | 11.2 | 14.8 | 18.7 | 22.5 | 23.4 | 19.3 | 14.0 | 8.4 | 3.2 | 11.9 |
日下部 | 1.8 | 3.0 | 6.8 | 13.4 | 16.9 | 21.5 | 25.3 | 25.7 | 22.2 | 15.8 | 9.5 | 4.1 | 13.8 |
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(図版入る)
縣下二十一カ所の毎日最高平均気温(七月)を見ると、鰍沢が三一・○で最高、次が市川大門町・石和・甲府・日下部の順で、最低は二四・一の山中である。これで見ても日下部は甲府に次ぐ酷暑の町であると言える。
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前の表と同様二十一カ所の最低平均気温(一月)を見ると、最低は山中のマイナス九・○次は吉田のマイナス七・八次は丹波山のマイナス六・五。日下部は九位甲府は十一位となつている。
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縣下二十一ヵ所の降水量で、最も多いところは山中の二六四〇粍、次は硯島の二四四四粍、日下部は一二二四粍で二十一位である。これで見ても雨量が少く夏は酷暑に見舞われ、冬は又相当に塞い氣候の特色をもち、乾燥の多い空気の中に生活を続けている訳である。
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この表によれば十二月、一月、十一月、二月が良い天気が多いが、このように冬の天氣がよいのは冬季季節風によつて、シベリヤから吹いて來る北西風が日本海の湿氣を裏日本の山岳地方に雪として降らせ、カラカラに乾燥した北風を山梨縣にはこんで來るからである。
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表によると7月が一番雷が多いが、これは夏の暑い太陽が甲府盆地を照す為である。
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これによると十一月、十月、十二月等が霧の多いことがわかるが、これは十一月や十月は風が弱く良く晴れた夜が多く、夜中に氣温が下つて水蒸気が凝結し易いからである。
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春は東風が卓越し夏は東風及南風、秋は東風それに次いでは西風、冬は西風が多い。一カ年を通じて卓越する風は東風であり、これについて相反する方向の西風が多い。この中で冬季最も強い風は北北西風であり、冬季に於ては平均四・三米(一秒間)もあり、三月に於ては最大一四・二米という風速を示している。南風と南東風は大体に於て弱い風である。南風の強かつたのは四月の五・七米で南東風は七・一米である。