46 母牛と仔牛

愛宕山の麓に牛が遊んでゐる。頭數三十五で乳量は毎日三千リツトル、是等は小賣乳として二千八百リツトル、卸乳として二百リツトル。
乳製品としてはクリーム、バターを作り又キングパンを作り、各種の方面に利用されてゐる。
品種はホルスタイン雜種が大部分で、ジエルシイ雜種が少々、種牛にはホルスタイン、ジエルシイ共に純粹種である。
うらゝかな春の一日この精乳舍を訪れると、運動場の柵内にまだ角の生えぬ仔牛が無心に遊んでゐた。傍にゆつたり構えて、我が仔を見守る母牛の優しいまなざし…………………
母牛にも仔牛にも、和らかい春の日が背中からふりそゝいでゐた。

(倉田吾朗)


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