63 奇橋猿橋

谷深きそばの巖の猿橋は
  人も梢を渡るとぞ見る。
此の橋は周防の錦帶橋、祖谷の蔓橋と共に、日本三奇橋の一として世に知られてゐる。
此地一帶の地底は一枚の岩盤で、全村の人家は此の上に建てられ、建築に礎石を用ふる必要はない。この岩盤は富士の熔岩にして、橋畔には桂川の侵蝕により、はつきりとその裂面を表はしてゐる。今は中央線鐵橋、東電水道橋、舊猿橋、新猿橋と四者相並んで、古今の變遷を物語つてゐる。附近に岩殿山、大月町がある。大月驛は富土山麓線の分岐點で、驛の建物は山國にふさはしい構造美を見せてゐる。この附近一帶甲斐絹の生産が多い。

(佐藤時丸)


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